筋肉は「動くため」だけではない

93歳から考える、筋トレと健康寿命

「いつまでも自分の足で歩きたい」

年齢を重ねるほど、こうした願いは大切になってきます。

そのために欠かせないものの一つが「筋肉」です。

以前の記事で、93歳でありながら非常に高い体力を維持していたアイルランドのリチャード・モーガンさんを紹介しました。

モーガンさんは、低強度の有酸素運動に加えて、短時間の高強度運動や筋力トレーニング、十分なタンパク質の摂取を続けていました。

興味深いのは、彼が本格的に運動を始めたのが73歳だったこと。

「年齢を重ねてからでは遅い」

とは限らないことを示す一例です。

筋トレは「筋肉を大きくする」だけではない

筋力トレーニングというと、

「筋肉をつけるためのもの」

というイメージが強いかもしれません。

もちろん筋力や筋肉量を維持・向上させることは大きな目的です。

しかし、加齢を考えるうえでは、それ以上に重要な意味があります。

年齢とともに筋肉量や筋力が低下していく状態は「サルコペニア」と呼ばれます。

筋肉が減ると、

・歩く
・立ち上がる
・階段を上る
・物を持つ

といった日常動作が少しずつ難しくなっていきます。

そして活動量が減ることで、さらに筋肉が落ちる。

この「筋肉が減る→動かなくなる→さらに筋肉が減る」という悪循環を防ぐことが、健康寿命を考えるうえで重要になります。

だからこそ、筋トレは若い人だけのものではありません。

むしろ、年齢を重ねるほど「身体を使い続ける」という意味が大きくなってきます。

筋肉は「内分泌器官」でもある

さらに近年注目されているのが「マイオカイン」です。

マイオカインとは、筋肉が収縮することで分泌されるさまざまな生理活性物質の総称です。

つまり筋肉は、単に身体を動かすための組織ではなく、運動によって全身にさまざまなシグナルを送る組織でもあるのです。

筋肉を動かすことによって、筋肉だけではなく、代謝や免疫、脂肪組織など、身体のさまざまな機能に影響を与えることが研究されています。

「筋肉を鍛える」ということは、

単に腕や脚を強くするだけではなく、

「身体全体を動かすスイッチを入れる」

ような意味もあるのかもしれません。

では、どれくらい運動すればいいのか?

ここで大切なのは、最初から頑張りすぎないことです。

今回紹介した93歳のモーガンさんは、筋力トレーニングを週2回行い、各運動を「失敗する寸前」まで行っていたと報告されています。

一方で、本当に限界まで追い込むことが健康のために必要というわけではありません。

記事でも、完全に力尽きるまで行ったり、最大負荷をかけたりすることは、ケガのリスクを高める可能性があると紹介されています。

健康づくりでは、

「どれだけ頑張ったか」

よりも、

「どれだけ安全に、長く続けられるか」

が重要です。

73歳からでも始められる

モーガンさんが本格的な運動を始めたのは73歳。

これは、私たちにとって大きなヒントになります。

「もう遅い」と思った瞬間が、実は「今から始める時」なのかもしれません。

ウォーキングでもいい。

スクワットでもいい。

椅子から立ち上がる運動でもいい。

自分の身体を、自分の力で動かす。

それを無理のない範囲で続ける。

それだけでも、将来の身体は変わっていきます。

健康は、特別な方法で一気につくるものではありません。

筋肉を守り、サルコペニアを防ぎ、身体を動かし続ける。

そして、運動によって筋肉から生まれるさまざまなシグナルを身体全体に届ける。

そんな小さな積み重ねが、健康寿命につながっていくのだと思います。

私は、健康づくりも「7割くらい」がちょうどいいと思っています。

100点を目指して無理をするより、

「これなら続けられる」

という運動を見つけること。

筋肉は、一日でつくるものではありません。

でも、何歳からでも「使うこと」は始められます。

今日できることを、少しずつ。

そして、それを長く続ける。

それが、将来の自分の身体への投資になるのではないでしょうか。

※今回紹介した93歳男性の事例は1名を対象としたケーススタディであり、同じ結果がすべての人に得られることを示すものではありません。マイオカインについても、個々の物質の働きや健康への影響は研究が続いている分野です。

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